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2010年7月3日 今大会の日本代表について

今回の代表の戦いぶりと結果について、巷では概ね賞賛・賛辞・謝辞が飛び交っています。
またその反面、一部では守備的な戦いぶりに疑問を呈する声も上がっているようです。

両方わかります。
期待せずに、ダメだろうと思ってたチームが、あれだけ頑張ったわけですし、
また、それまでのチーム作りを無にするコンセプト放棄の付け焼き刃策でもあったわけですし。
内容もつまらないし、美しくないし、先に繋がらないサッカーと見られてもしょうがないものでした。

ですが私は極めて肯定的に捉えています。
現地に赴いて、現場の空気を体感したからこそ、感じられた事があるからだと思います。

私は基本的に、日本のサッカーというものを確立し、体現して、
世界に認められる様になる事を夢見ています。
日本のサッカーの確立と言う意味では、近年ようやく固まりつつあったスタイルで、
高いテクニックを備え、組織的で規律があり、労を惜しまず勤勉に走り、
パスを繋いでマイボールを大事にした、スタイリッシュなポゼッションサッカー、といった感じでしょう。
これを貫き、世界に一目置かれる様になれれば、結果は二の次みたいな所がありました。
美しく勝利するのが理想ですが、勝利するのがまだ難しい現状では、まずは美しさを追求しよう、と。
醜いサッカーで勝利したところで、先には草木も生えていない、目先重視の不毛な策だ、と。
美しいサッカーをしてこそ、世界に認められる。グッドルーザーとして大会を去る事やぶさかでなし。
長い間、極論すればそういう考えでした。

その凝り固まった考えに変化を与えたのが今大会でした。

大会開始前や開始当初、日本は完全にアウトサイダーでした。
出場してはいるものの、全く注目もされず、気にもかけてもらえない状態でした。
恐らく南アだけでなく世界のほとんどの人々が気づきもせず、
エントリーされているだけの、実質限りなく透明に近い存在でした。

「どこから来たんだ?日本か。あぁ、そういえば日本も出てたんだ。で、どこと試合するんだ?」
この会話の繰り返しでした。
今回サウジとイランが出場権を失いました。ですがその事を気にかける第三者は皆無。
仮に日本でなくてサウジが出場していたとしても、日本が出ていない事に気づく人はゼロ。
それが実情です。要はそれだけの存在なわけです。

それでも自信を持って見返してやれるだけの実力が期待できればいいものの、
今回に関しては過去の三大会と比べてもダントツで期待値が低い状態でした。
はるばる南アフリカまで、わざわざそんな屈辱を味わいに行った様なものでした。

カメルーン戦に勝利しました。それでも扱いは変わりませんでした。
私自身が想定していなかった勝利に戸惑いながらも歓喜し、
街の人々は祝福の言葉を投げかけてくれました。
それでも未だにワールドカップでの市民権を得たわけではなく、
ただ単に今日の試合に勝っておめでとう。それだけのものでした。

オランダ戦に敗北しました。状況が変わったのはここからでした。
ポイントは 0 - 1 というスコアでした。これにより次戦は引き分けでも通過となり、
デンマークよりも優位な立場となりました。
このポジションを得てから、報道でも Japan という言葉が度々登場するようになり、
デンマーク戦前には、グループ F のラジオ中継のアナウンスに、
「このグループを首位で通過したチームは、恐らく日本が対戦相手となります。」
とまで言われるようになりました。
日本がようやく市民権を得た瞬間だったと言えるでしょう。

デンマーク戦に勝利しました。これが周囲の目を変える決定的な要因となりました。
試合内容も印象深いものであった事(某南ア人の言葉で 2 Great Free Kick)も手伝い、
日本に対する認知度は加速度的に増していきました。

そしてパラグアイ戦。スタジアムのほとんどの観衆が日本を応援していました。
南ア人から他国サポーターまで、フェイスペインティングはほとんどが日の丸でしたし、
祭りのハッピや鉢巻き、その他日本にまつわる装飾品を身につけ、
日本のチャンスには沸き、ピンチには悲鳴をあげる、そんな状況でした。
敗退が決まった後、行き交う数え切れない南ア人が私を慰めてくれました。
抱きしめられたその力強さに、応援してくれていた彼自身の無念さも感じさせられました。

結果を残す事は、こうも劇的に取り巻く状況を変えるものなのか、と。
逆に言えば世界のサッカーの話題の中に入りこみ、承認される為に、
結果というものは斯くも重要な要因だったのか、と。

一方、今回の代表の戦いぶり、内容も、心を打った要因だと思います。
弱者は弱者なりにそれを自覚し、認め、そこから何が出来るかを練り、
精一杯それに対して取り組んだ姿勢も評価されたんだと思います。
また、HONDA のプレイも非常に大きかったと思います。

日本が目指すべきスタイリッシュなサッカーとは程遠いものの、
出来る事を精一杯行い、出来る範囲以上の結果を残した今回の代表を、
誇りに思う自分がいました。

美しく勝利する。これは理想ですし、目標です。
これからも追い続けなくてはいけません。
ですが美しさを追求しつつ、勝利が必要とされる時にはそれを一旦置いておく。
そんな事が出来れば、道はまた拡がっていきます。
使い分ける事が出来れば、それはとてつもなく大人なサッカーでしょうし、
敵にしてみれば、非常にいやらしく、やりにくい相手となるでしょう。
そんな形での承認というのもアリなんじゃないかな。そう思ったワールドカップでした。

南アフリカまで赴いて本当によかった。
そう思わせてくれて、ありがとう。


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